2019年に中国の武漢で報告されて以来世界中で2億人以上が感染し、400万人以上の死者を出しているのが新型コロナウイルスCOVID-19です。デルタ株などの変異株の出現で、より感染力を増しており、ますます感染対策が重要となってきています。そんな中で妊婦の方から、COVID-19に感染したらどうなるのか、またワクチンの摂取の案内が届いたが、妊婦でも打っても大丈夫なのかという質問をいただきます。妊娠されている方は現在の状況に対してより不安に思っていることでしょう
今回は、そんな妊婦のCOVID-19の対応について解説をしていきます。
ワクチンの摂取が始まっていますが、多くの妊娠中の方がワクチンを打っても良いのか迷っているのが現状です。お腹の子どもに影響はないのか、また妊娠中の母体には通常と異なる影響がないのかについて見ていきましょう。
ワクチンに限らず医薬品などを投与するかどうかを検討するときには、投与で得られる利益と、副反応などのリスクを比較して利益の方が大きい場合に投与を行います
まず、ワクチンを接種することの利益について、見ていきましょう。ワクチンの摂取を受ける利益とは、当然COVID-19の感染や重症化を予防することができるということです。現在、日本でも感染力の強いデルタ株が流行しており、予防対策を徹底していても完全に感染のリスクをゼロにすることは難しくなっています。このデルタ株に対するワクチンの予防効果については、アメリカのメイヨークリニックという医療機関の研究チームの発表があり、モデルナ製ワクチンでは76%、ファイザー製のワクチンで46%となっています。このデータを見るとモデルナのワクチンが良いように見えますが、もう一つ非常に大事な指標が重症化の予防率です。どちらのワクチンも重症化を90%防ぐ効果があると言われています。母体の状態が悪くなれば当然胎児に大きな影響を与えますので、重症化を防げることが、万が一の感染の時に母体・胎児両方の予後に大きな影響を与えます。また、妊婦さんが感染すると、重症化する割合や早産の率が上昇するという報告もあります。このデータからは、どちらのワクチンであっても接種することで母体、胎児共にメリットは十分にあると言えるでしょう。
次に、リスクについて見ていきましょう。日本で摂取可能なワクチンは現在ファイザー製とモデルナ製がありますが、どちらもメッセンジャーRNAワクチンと言われる新しいワクチンです。これらは生ワクチンではないので、このワクチンを摂取することで感染する危険性はありません。副反応についてみてみると、注射部位の痛みや頭痛、倦怠感、発熱などの症状となっています。気になる流産・早産についてですが、ワクチンを接種した妊婦と一般の妊婦で有意な差は見られませんでした。ワクチン摂取後の母乳を調べた研究で、母乳中にワクチン由来のメッセンジャーRNAは認めなかったと報告されており、出産後の授乳についても問題はありません。以上から妊婦のワクチン摂取は利益がリスクを十分に上回ると考えられます。
妊娠中にCOVID-19に感染すると、お腹の赤ちゃんに影響がないか心配する妊婦さんも多いかと思われます。赤ちゃんへの影響について見ていきましょう。
現時点では、COVID-19に妊婦さんが感染することでお腹の赤ちゃんに生まれつきの障害がでたり、流産のリスクが高まるという報告はされていません。妊娠中期・後期の感染では、早産のリスクが高くなり、新生児についてはNICU(新生児集中治療室)に入室を要した例が多かったとの報告がありますが、死産や新生児死亡のリスクの大きな上昇は認めていないようです。
感染を疑うような症状(発熱や咳)が出たときには、早めにかかりつけの病院に相談することをお勧めします。かかりつけの病院に連絡を取れない場合には、都道府県ごとに設置されている受診・相談センターに電話で連絡して指示を受けましょう。
COVID-19患者が多い時期には、発熱外来は予約制になっているところも多く、連絡なしに受診をすると待ち時間が非常に長くなったり、対応できない場合もありますので受診すべきかどうかも含めて電話で相談してから受診するようにしてください。
今回は、妊婦のCOVID-19について解説しました。
自分だけではなく、お腹の赤ちゃんの命も背負っている妊婦さんにとって現在のCOVID-19の流行下での生活は非常に気を使い、ストレスフルかと思います。ワクチンや感染対策などの情報については、なるべく最新のものを確認し、適切な行動をとって、少しでも感染や重症化のリスクを下げていきましょう。